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近年、海水魚、サンゴ飼育は飼育器具の品質や機能が向上したおかげで以前より容易に、更に高いレベルでの飼育が可能になりました。飼育のレベルが上がるという事は、経験に基づくノウハウに加えより高い知識というものも必要になってくると私たちは考えています。安易に高価な器具を導入しただけでは、その能力を充分に活用出来なかったり場合によってはトラブルの要因にもなりかねません。より深く理解し、正しい判断ができる知識を身に付け活用していくことがこれからは必要であると考えています。
水槽内でどうしても発生してしまう問題物質アンモニアを硝化細菌の働きで硝酸塩に変えてしまう生物ろ過が広く理解されました。しかしサンゴ飼育には硝酸塩は大敵であり、硝化反応時に水は酸性に傾くことなどから硝化細菌だけに頼らないろ過という考え方が生まれプロテインスキマーなどの器具が登場してきました。そして処理能力の高いプロテインスキマーの登場で硝化細菌に頼りきっていたろ過システム自体が一遍されてベルリンシステムなるものが登場しました。さらにカルシウムリアウターの登場でサンゴ(特にミドリイシ類)の飼育は今や海水魚の飼育より容易になったといっても過言ではありません。飼育が容易になったと同時に飼育レベルも上がり、アクアリストの求めるレベルも当然、高くなってきています。
難しい話もありますが、水槽内で魚やサンゴを飼育していくために役に立ち、また正しく理解することでトラブルの原因解明、回避にも役立つものと思います。断片的な知識を繋げ合わせ、理に適った大きく深い知識へと導きたい、更なる高みを目指す為に、より高い知識、正しい知識を求める方へ。。。
AQUA GEEKは本気です
硝化バクテリアの働き
一般的に、水槽内のアンモニアを亜硝酸、硝酸塩へと変える反応を硝化と呼び、そこで働くバクテリアを硝化バクテリアと呼びます。ニトロソモナス、ニトロバクターなどが有名です。
※硝化バクテリアは酸素があるところに繁殖する(好気性)バクテリアで、ろ材表面やライブロック、水中などに繁殖する。アンモニアを最終的に硝酸塩へと変える。
還元バクテリアの働き
硝化に対して逆の反応を、酸素を奪うことを踏まえて還元と呼びます。還元バクテリアは酸素がないところでは硝酸塩や亜硝酸から酸素を奪います。結果それらは窒素へと変えられ空気中に放出されます。さらに酸素を奪う硝酸塩がなくなると今度は硫酸塩を還元します。硫化水素が発生しますが通常は底砂の深い部分で起こるので水槽内まで出てくることはありません。
※還元バクテリアは酸素がないところにのみ繁殖すると思われがちですが、酸素があるところでは別の働きをしており、環境によって働きの変わる特殊なバクテリアです。酸素がある好気域では有機物の分解をしています。いずれにしても基本的に還元は酸素が無いところでしか行われません。
まとめ
水槽をセットしたばかりの時期はまず硝化バクテリアの増加を待つことになります。彼らは水槽内の残餌や魚のフンなどから出来る、生物にとって有害なアンモニアを亜硝酸、さらには比較的無害な硝酸塩へと変えてくれるのです。しかし一般的なろ材を用いたろ過システムでは硝酸塩がどんどん蓄積されてゆきます。硝酸塩の濃度が高くなると生物にも悪影響が出始めます。水替えが必要なのはこのためです。
底砂を厚めに敷き、ろ材を使わず強力なプロテインスキマーを利用するベルリンシステムは底砂の中に酸素が無い嫌気域を作り、そこで還元を行わせ硝酸塩を低く保つ自然のサイクルを目指したろ過システムということになります。硝酸塩に敏感なミドリイシなどのサンゴの飼育に適しています。
ろ過とバクテリア
一般に有機物と呼ばれる物質の中にはタンパク質、炭水化物、脂肪などがあります。
しかしアクアリウムにおいてのろ過ではタンパク質の事だけが取り上げられています。
それはなぜでしょう??
一つ目の図はそれぞれの構成元素です。炭水化物は酸素、水素、炭素から成るのに対し、タンパク質はさらにリンと窒素を含みます。実はこの窒素こそがろ過をしなくてはならない大きな理由です。
二つ目の図のように炭水化物と脂肪は加水分解されて二酸化炭素と水に変わるのに対し、タンパク質はヒドロキシルアミンという物質を経てアンモニアへと変化します。窒素(N)の化合物は生物に対して毒性が高い上、Nが水槽中から消えることはありません。そこで比較的無害である硝酸塩へと変えるために生物ろ過(硝化)が行われるのです。
もうひとつ重要なことはこれら全ての反応においてpHが下がる傾向にあるということです。pHの話で詳しく触れていますが、硝化反応の時に発生する水素イオン、加水分解で生じる二酸化炭素はどちらも海水中のpHを下げることになります。実際に二酸化炭素はサンゴや海草類の光合成にも利用されますが、生物ろ過だけに依存したろ過システムの場合にpHが下がってしまうのは、硝化バクテリアが活発に働けば働くほど仕方のないことと言えます。
まとめ
生物ろ過は硝化バクテリアの働きを利用してアンモニアを硝酸へと変えます。生物にとって比較的無害な硝酸塩も大量に蓄積すると害が出始めます。またサンゴ類は硝酸塩を嫌う(弱い)種類が多いのも事実です。そこで硝酸塩を水槽から取り除く為に水換えを行います。単純に言うと、半分水換えをすれば硝酸塩濃度は半分になります。しかし水換え作業は楽ではなく長く楽しむ趣味としてのネックとなることもあり、最近では還元バクテリアの働きを利用して硝酸塩を窒素ガスへと変えて水槽外へ出す考え方が普及しはじめ、デニトレーター、窒素還元などという言葉をよく耳にするようになりました。還元バクテリアは酸素がないところでは硝酸塩、亜硝酸から酸素を奪い窒素へと変えてゆきます。しかし硝酸塩がゼロになると今度は硫酸を還元するため硫化水素が発生します。正しい知識が無いと一夜にして水槽全滅という事にも成りかねません。
pHの話
水の分子は5~6億個の割合でH+、OH-というイオンの形に分離しており、これを電離と呼びます。水の電離によって生じているH+のモル濃度とOH-のモル濃度は等しく、25℃でそれぞれ1.0×10-7mol/ℓになっています。この状態が中性と呼ばれpH7となります。
H+とOH-のモル濃度の積はイオン積(KW)と呼ばれ温度が変わらなければ常に一定に保たれます。関係式で表すと KW(25℃)=〔H+〕×〔OH-〕=1.0×10-14となり、溶液のH+濃度が1×10-nmol/ℓの時pH=nとなります。
pHが1変化するということはH+の濃度が10倍変化するということであり、pHが3変化するということは103=1000倍変化するということになります。
CO2の影響
海水中にCO2を添加するとCO2は水と反応して炭酸(H2CO3)を作ります。それから炭酸水素イオンや炭酸イオンに分解します。その過程でH2O中のOH-が奪われ、さらに水素イオンの電離も起こり酸性となり(pHが下がり)ます。
KHの話
KHとは炭酸イオン濃度のことです。
淡水ではKHは硬度を示す単位として使われていますが、海水の場合は酸の中和力を表す単位として解釈、使用されます。この酸を中和してpHを安定させようとする働きはバッファー作用と呼ばれています。KHを高く維持できればpHも安定させることができます。実際にカルシウムリアクターの調整時なども生産水や飼育水のKH濃度を測りながら行います。KHは水質安定の鍵を握る大切な指標です。
アルカリ度とは主にアメリカで使われる単位であり、KH同様、炭酸水素イオン(HCO3-)や炭酸イオン(CO32-)などpH緩衝作用を持つ弱塩基が1L中にどれだけ含まれているかを表したもので KH=アルカリ度×2.8 で換算することができます。
まとめ
上記の反応式からも分かるように、KH(炭酸イオン)は水槽内でpHやカルシウムの安定に深く係わっています。pHはKHによって支えられており、KHが下がってから(中和できなくなってしまい)pHが下がります。またpH、イオン量が同じ場合カルシウム濃度が高くなるとKHは低く、KHが高くなるとカルシウム濃度は低くなります。どちらも適正値で安定させること(イオンバランス)が重要です。しかし、KHの重要性は現在のところあまり認識されていないと思われます。実際に水槽内に起こる様々なトラブルの原因に意外にも多く係わっています。pH、カルシウムといった数値の安定にはとても重要で無視することはできません。